ラヴについて


ラヴ1965年にアーサー・リーを中心にロサンゼルスで結成。当初のグループ名は『グラス・ルーツ(The Grass Roots)』であったが、先にデビューした同名のバンドがいたために、『ラヴ』と改名する(アーサー・リーによれば、"It's a big word, it's the best part of life."とのこと)。翌1966年にはエレクトラ・レーベルと契約。同レーベルと契約した初めてのロック・バンドとなる(ちなみに、2番目のバンドはドアーズ)。白人ロックに影響を受けた史上初(?)の黒人ミュージシャンであるアーサー・リーの存在や、黒人と白人が混在したメンバー編成など、まだまだ保守的であった1960年代のアメリカにおいては、かなりの異彩を放っていたことと思われるが、フォーク・ロックをベースにしながらも、サイケデリック、ブルース、カントリー、フリー・ジャズなど、様々なスタイルを取り込むことによって、音楽的にも独自の世界を築き上げることに成功した。とりわけ、3rdアルバムの『フォーエヴァー・チェンジズ』は、彼らの最高傑作であり、ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』やヴェルヴェット・アンダーグラウンドの1stと並び、60年代のアメリカを代表する一枚と見なされている。しかし、ロサンゼルスから出ようとはせず、滅多にライブ活動をすることもなかった、彼らのプローモーションに対する非協力的な態度のせいもあって、セールス的に成功することは遂になかった。アーサー・リー以外のメンバーが総入れ替えとなって制作された4thアルバム『Four Sail』発表後のラヴは、徐々にアーサー・リーのソロ・プロジェクト的な性格が強まってゆき、実質上のラスト・アルバムといってもいい、6thアルバム『False Start』以降になると、アーサー・リーが抱えているプロジェクトが、彼のソロ名義となるか、もしくはラヴ名義となるのかは、もはや彼の一存でしかなく、現在に至るまで、ラヴは再編/再結成を繰り返し続けている。アーサー・リー自身も、70年代の半ばには音楽業界を去って、ペンキ屋として働いていた時期もあれば、90年代後半には、隣家にショットガンを放ち刑務所に収監される、といった出来事もあり、かなり波乱万丈な人生を送っているようだが、2001年に出所してからは、再び新しいメンバーとともに、ラヴ・ウィズ・アーサー・リー名義で勢力的にライブ活動を行っている。(追記:2006年8月3日、アーサー・リーは故郷であるメンフィスの大学病院にて白血病のため死去しました。享年61歳。ご冥福をお祈りします。)



ラヴのアルバム


Love / Love (Edsel ED218 LP)

ラヴ1966年に発表された記念すべきラヴのデビュー・アルバム。リッケンバッカーの響きが印象的なフォーク・ロックがアルバムの多くを占めており、おそらく当時のアメリカには大勢いたかと思われるバーズ・フォロワーのバンドのひとつと見なされたとしても不思議ではない(メンバーのひとり、ブライアン・マクリーンはかつてバーズのローディーだった)。ラヴがその真に偉大な姿を表すのは次作を待たなければならないが、しかしその萌芽はこのアルバムのそこかしこにも感じられる。マンフレッド・マンの装飾過多なオリジナル・ヴァージョンを、シンプルかつ歯切れの良いビート感覚でカバーした、バート・バカラック作の「My Little Red Book」は、スティーブン・フリアーズ監督の映画『ハイ・フィデリティ』(ニック・ホーンビィの原作はさらに素晴らしい)のエンディングにも使用され、いまやオリジナル以上に有名になっている。この曲はラヴのデビュー・シングルであり(全米チャート52位まで上昇)、この曲のリフをヒントに、シド・バレットがピンク・フロイドの「星空のドライブ」を作り上げたことは一部ではよく知られた話。ブライアン・マクリーンはバーズのレパートリーであった「Hey Joe」をラヴにも持ち込む一方、オリジナル曲の「Softly to Me」を提供しており、彼ならではのセンシティヴな持ち味を発揮している。そして、間奏のブルースハープがたとえようのない情感を醸し出す「Signed D.C.」は、アーサー・リーの白人音楽趣味と彼自身のアイデンティティが程好くブレンドされた初期の名作である。アルバムの全編に渡ってフューチャーされる<ジングル・ジャングル>なギター・プレイは、やはりロジャー・マッギンを想起せずにはいられないが、「Can't Explain」、「No Matter What You Do」、「You I'll Be Following」といった楽曲で聴くことのできる、アーサー・リーのストレートで爽やかなポップ・センス(まだシラフだったから?)は、2ndアルバム以降のどこか捩れた世界観とは異なり、ラヴとアーサー・リーにとっての<青の時代>を捉えた興味深いドキュメントだともいえるだろう。全米アルバム・チャートでは57位を記録している。


Love / Da Capo (Elektra 8122 73604-2)

ダ・カーポフルート、サックス、チェンバロといった楽器を導入し、サイケデリック・サウンドへの接近を試みた1967年発表の第2作。バンド固有の音が初めて確立されたアルバムだといえるだろう。煌びやかな音世界と幻想的な雰囲気が充満し、ファッションや思想ではなく、音楽としてのサイケデリアを説明する際に、分かりやすいサンプルとしても挙げられる一枚かもしれない。特に、LPではA面に収録されていた6曲目までは完璧といってもいい内容であり、チェンバロがバロック音楽の優美な旋律を奏でる「She Comes in Colors」や、フルートの音色にソフト・ロック的な優しさが滲み出るような、ブライアン・マクリーン作の「Orange Sky」など、どの曲をとっても素晴らしい。ただし、問題はラストの「Revelation」である。ローリング・ストーンズのレコーディングを見学したアーサー・リーが感銘を受けて、そのままスタジオに入ってメンバーとともに即興的に作ったと言われるこの曲は、アイアン・バタフライの「In-A-Gadda-Da-Vida」に先駆けての、LPの片面すべてを1曲に費やした、ロック界では初のケースだと言われているが、残念なことに、曲そのものは無闇に長いだけの退屈な1曲となってしまっている。CD化されて、アルバムの中の単に出来の悪い1曲という聴き方も可能にはなったが、この曲の存在がアルバム全体の評価を下げている元凶であることに変わりはないだろう。また、このアルバムの中から、「Seven and Seven Is」(この曲のタイトルはアーサ・リーと当時のガールフレンドがともに7日生まれであったことから由来している。カップリング曲はA面の答え?である「Number Fourteen」。どちらのタイトルも歌詞とはまったく関係がない)がシングル・カットされて、全米チャートの33位まで上昇したが、10年早すぎたパンク・ソングともいうべき、この異色の楽曲が、彼らの最大のヒット曲となったことは、むしろバンドのイメージを混乱させるだけであったようにも感じられるのだが。なお、現行のCDでは、ステレオとモノラルの両ミックスで全曲が収録されているが、「Orange Sky」のモノラル・ヴァージョンでは、冒頭部分のフルートが欠落しており、これにはかなりの違和感を憶える。LPでも採用されていたステレオ・ヴァージョンだけ聴けば充分だろう。全米アルバム・チャートでは80位を記録。


Love / Forever Changes (Elektra/Rhino 8122-73537-2)

フォーエヴァー・チェンジズ1967年に発表されたラヴの最高傑作。68年発表と表記されることが多いのは、このアルバムがイギリスで発表されたのが68年だったからなのかもしれない。ラヴに対する評価は、当時も今もアメリカよりイギリスの方が高く、このアルバムもイギリスのチャートでは24位を記録している(アメリカでは154位)。現在ではさほど珍しくもないが、アルバム全編にオーケストレーションを施したロック・アルバムという点において、このアルバムが果たした役割というのはかなり大きいと思われる(ヴァン・モリソンの『アストラル・ウィークス』は翌68年発表)。ただし、そういった先駆的な側面をさしおいても、このアルバムがいつの時代を問わず、際立って素晴らしい作品であることは疑いようがないだろう。ブライアン・マクリーンによるオープニング曲「Alone Again Or」は、フラメンコ調のアコースティック・ギターの響きと流麗なストリングスの絡みが美しく、また間奏のトランペットのソロも印象的な名作であり、アルバムの開巻早々、聴き手を異次元の世界へと誘う。マクリーンはもう1曲「Old Man」という、これまた見事な作品をアルバムに提供しており、<2番目の>ソングライターという以上の働きをみせている(しかし、マクリーンは自分のヴォーカルのミックスが気に入らず、このアルバムを聴いたのは一度だけだ、と後に語っている)。一方、アーサー・リーは、彼の無垢な精神を垣間見るような「Andmoreagain」、彼のヴォーカルとトランペットの掛け合いが実に格好良い「Maybe the People Would Be the Times or Between Clark and Hilldale」、そしてエンディングのオーケストラのテープ処理が面白い「The Good Humour Man He Sees Everything Like This」など、その才気を遺憾なく発揮している。なかでもハイライトといえるのは、やはりリーによるエンディング曲「You Set the Scene」であろう。7分近くに及ぶこの作品では、軽やかなフォークロック調の前半から一転、後半部分では、ストリングスやホーンが加わり、この傑作アルバムのエンディングにふさわしく、サマー・オブ・ラヴ(まさに!)を高らかに謳い上げる。

アルバムのレコーディングには、約64時間と2,257ドルしかかからなかった、と記録にはあるが、当時アーサー・リーを始め、メンバーの何人かはヘロイン中毒となって、リハーサルにもろくに姿を見せず、バンドはバラバラの危機的な状況にあったようで、プロデューサーのブルース・ブートニックはバンドがレコーディングできる状態ではないと判断して、ハル・ブレイン、ビリー・ストレンジ、ドン・ランディといった、当時の腕利きのスタジオ・ミュージシャンを呼んで、「Andmoreagain」と「The Daily Planet」の2曲をレコーディングしたという。自分たちの曲を他人が録音するのを目にしたメンバーたちは大いなるショックを受けて、一念奮起し、上記のような短時間で一気に残りのレコーディングを済ませた、というのが真相のようだ。光と影のニュアンスの微妙な変化を思わせるような、この幻想的な音世界が生み出された裏側では、このようなエピソードが隠されていたのは意外ではあるが、このデリケートな音の質感は、まさにバンドの崩壊寸前の状況を反映してこそ、なのかもしれない。

2001年に再発されたCDのボーナス・トラックについて少しばかり。「Hummingbirds」は、「The Good Humour Man He Sees Everything Like This」の初期ヴァージョン。「Wonder People (I Do Wonder)」は、既に1981年のアーサー・リーのソロ・アルバム『Arthur Lee』の中で聴くことが出来たが、オリジナル・ヴァージョンは『Forever Changes』セッションで録音されていたようだ。アルバムに入っていてもおかしくないようなポップな名曲。「Alone Again Or」の別ミックスはマスター・テイクよりヴォーカルが前面に出たミックスになっているが、オリジナルと同じく、リード・ヴォーカルのはずのブライアン・マクリーンよりもアーサー・リーの声が勝ってしまっているので、やはりマクリーンは気に入らないかもしれない(マクリーンは1998年に他界。彼はマリア・マッキーの腹違いのお兄さんでもある)。「You Set The Scene」も別ミックス。残りの「Your Mind And We Belong Together」(8分に渡るセッションの模様も同時に収録されている)と「Laughing Stock 」の2曲は、ラヴが1968年に発表したシングルの両面であり、「Your Mind And We Belong Together」(この時期のラヴのタイトルには長いものが多い)は、3曲を一緒にしたような、めまぐるしい転調が特徴的な作品。1968年の後半までには、アーサー・リーを除く、すべてのメンバーがラヴを脱退したために、このシングルがラヴのオリジナル・ラインナップとしては最後の音源となった。



Love / Four Sail (Elektra 8122 73640-2)

フォー・セイルアーサー・リー以外のメンバーを一新した、第2期ラヴの幕開けとなった1969年の作品。アルバム・タイトルは、コール・ポーターのスタンダード「Love For Sale」(もしくは、ビートルズの『For Sale』?)をもじって、ラヴにとってこのアルバムが4作目にあたり、また4人組のグループとして再出発したことをかけているのかと思われる。ラストの「Always See Your Face」が、『ハイ・フィデリティ』の劇中に使用されただけでなく、サントラにも収録されたことによって、このアルバムの知名度も上がりつつあるが、完全な形でCD化されたのは、ようやく2002年になってからのことである(1987年に一度、イギリスのThunderboltレーベルがCD化してはいるが、何故か「Robert Montgomery」のヴォーカル部分のみが別テイクだった。2002年版にはそのヴァージョンもボーナス・トラックとして収録されている)。作品的には、リーの盟友であるジミ・ヘンドリックスの影響、あるいは当時のエレクトリック・ブルース・ブームを受けてのことなのか、アコースティック・ギターとストリングスの優雅な響きを持った前作とは打って変わって、リード・ギタリストとして迎えたジェイ・ドネランの派手なソロをフューチャーした、心機一転したアーサー・リーとバンドの意気込みが伝わってくるようなテンションの高い内容となっている。その傾向は、「August」、「Singing Cowboy」、「Robert Montgomery」などのブルース色の濃い楽曲において特に顕著であり、このアルバムの性格を決定付けてもいる。なかでも、滑らかで美しいギター・フレーズに聴き惚れてしまう「I'm With You」、ドネランのギターが唸り、リーがシャウトする中盤の展開がドラマティックな「Good Times」、そして「Singing Cowboy」へと繋がる流れは、このアルバムのハイライト部分だといえる。ただし、その迫力あるサウンドと、アーサー・リーが作り出すメロディアスな曲調とが、時としてアンバランスな感覚を聴く者に抱かせてしまうことは、このアルバムに対する評価の分かれ目となるかもしれない。実際、『フォーエヴァー・チェンジズ』の影で長年の間、不当に過小評価されてきた作品ではあるのだが、そういった経緯も含めて、敢えて彼らの<2番目に>素晴らしいアルバムとして、『フォーエヴァー・チェンジズ』しか聴いたことがない(多くの)ロック・ファンには、是非このアルバムを薦めておきたい。


Love / Out Here (MCM MCAD-22030)

アウト・ヒアElektra からBlue Thumbへとレコード会社を移籍したものの、『Four Sail』から1年も経たず、同じく1969年に発表された、当時はLP2枚組であった大作。とはいえ、通常2枚組のアルバムに期待されるような、ボリュームやスケール感のようなものは感じられず、デモテープとまではいかないものの、雑然とした寄せ集め的な内容(実際、「Listen to My Song」は『Forever Changes』セッション時のアウトテイク)に留まってしまっている。ただし、やたら力の入っていた前作に較べると、肩の力が抜けて、アーサー・リーのしなやかなポップ・センスを感じさせる楽曲が多く入っているだけに、ファンにとっては、やはり聴き逃せないアルバムではあるだろう。1stに収められていた「Signed D.C.」をエレクトリック・ブルース風にリメイクしたヴァージョン、そしてアーサー・リーの弾き語りによる「Listen to My Song」にかけての流れなど、実際悪くはない。軍隊行進曲を思わせる「Discharged」や、キーボード(オルガン?)がフューチャーされた奇妙なインスト曲「Instra-Menatal」なども、成功しているかどうかはともかく、試みとしては面白いのではないだろうか。しかし、ともに10分を超える、「Doggone」と「Love Is More Than Words Or Better Late Than Never」の2曲では、前者はドラム・ソロ、後者はギター・ソロが延々と繰り返されるだけの内容であって、ここで再び「Revelation」の悪癖が頭をもたげてしまったのはいただけない(ソロの部分をカットすればLP1枚分に収まっていたのに!)。また、作品全体を通して、キー・ポイントとなるような楽曲が見当たらないことは、このアルバムの焦点が定まらない結果にも繋がって、そうなると、ブライアン・マクリーンの不在というのが、ラヴにとっては痛手であるようにも思えてくる。ボサノヴァ調のギター・ワークが美しい「Nice to Be」や、哀愁を感じさせる歌心が素晴らしい「Gather 'round」など、アーサー・リーのマジックはまだ健在ではあるのだが。


Love / False Start (MCM MCAD-22029)

フォルス・スタート第2期ラヴの最終作である1970年の作品。このアルバム後のラヴは、もはやバンドという共同体ではなく、アーサー・リーのソロ・プロジェクトだとみなして構わないだろう。このアルバムも、全曲アーサー・リーが単独で書き、プロデュースも彼が担当している。ロデオ風の「Slick Dick」や、軽快なコーラスがフューチャーされた「Love Is Coming」など、アルバム全体を通して、リラックスしたムードが支配している。しかし、ラストの「Ride That Vibration」では、能天気なくらいポップな冒頭部分から一転して、後半ではアーサー・リーのシャウトが爆発して、ギター・ソロが弾きまくられる。こういったいかにもロック的な綻びこそが、ラヴらしさをまだ感じさせる部分でもある。アルバム自体の出来は決して悪くはなく、それなりに聴き所もあるのだが、前作同様、核となるような曲が存在せず、全体的にこぢんまりと纏まってしまっているのが、幾分物足りなくもある。なお、オープニングの「Everlasting First」では、ギターとアレンジでジミ・ヘンドリックスが参加しており、イントロからあの特徴的なフレージングを聴かせる。


Love / Reel To Real

アーサー・リー&ラヴRSOレーベルと単発契約を結んだアーサー・リーが、ラヴ名義で1974年に発表したアルバム。「Singing Cowboy」や「Everybody's Gotta Live」の再演を含む、ソウルやファンク・テイストが前面に押し出された、彼にしては珍しい作風。考えてみれば、黒人であるアーサーが自身のルーツに帰ったと言えなくもないのだが、どこかそれが歪で奇異なものに感じられてしまうところが、黒人ロッカーの先駆者であるアーサー・リーの面目躍如というか、そのユニークな立ち位置を象徴していると言えるのかもしれない。必聴の作品というわけではないものの、オープニングの「Time Is Like a River」やウィリアム・デボーンのカバーである「Be Thankful For What You Got」など、個々の楽曲単位でみれば悪くないものも多いので、ファンとしてはやはりチェックしておきたい。アコギとゴスペル風コーラスによる新しいアレンジが施された「Everybody's Gotta Live」は、私見ではソロ・アルバム『Vindicator』に収められたオリジナル・ヴァージョンよりも良い出来だと思う。かなり以前に店頭でアナログ盤を見かけたことがあったのだが、その時に買い逃してしまったことが今も悔やまれる(次にその店に行ったときにはもう無かった)。2015年にHigh Moon Recordsより12曲ものボーナストラックを加えてようやく再発&初CD化。


Arthur Lee and Love / Arthur Lee and Love (New Rose rose288 LP)

アーサー・リー&ラヴ1992年にフランスのレコード会社ニュー・ローズから発表された、アーサー・リー・アンド・ラヴ名義のアルバム。『Reel To Real』から数えると実に18年、アーサー・リー個人としても、前作『Arthur Lee』(1981)から11年ぶりとなる作品である。長いブランクを経た後であっても、アーサー・リーの声にはほとんど変わりがないことに、ひとまずは安心させられる(ブライアン・ウィルソンやスコット・ウォーカーの変わり様といったら!)。翌年にマジー・スターがカバーした、オープニングの「Five String Serenade」は、『Forever Changes』の頃のセンシティヴな感性のみならず、諦念さえも受け入れていこうする意志と抱擁力とが加わった、アーサー・リーの全キャリアの中でも屈指の名曲といっていい出来映えである。残念ながら、それ以外の曲においては、「Five String Serenade」のレベルにまで達しているとは言い難いが、それでも、サックス・ソロが華を添える、ジャージーな「Ninety Miles Away」や、アーサー・リーの素晴らしいブルースハープのプレイ(「Signed D.C.」を想起させる)を聴くことができる「Love Saga」など、多くを求めなければ、それなりに満足のいく内容ではないだろうか。ただし、キース・ファリッシュなる人物が曲を書いて、リード・ヴォーカルも務めている「The Watcher」は、その打ち込みサウンドがアルバムの中で激しく浮いてしまっているヘンな作品。何故収録されたのだろう?

TOP

home